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新型コロナウイルス感染症

「おかえりなさい」とあたたかく迎える社会に

「もうここでは生きていけない」「周囲の目が怖い」ーー。コロナ禍で差別に悩む人の相談を受け付ける「新型コロナ差別ホットライン」。緊急事態宣言の延長など新型コロナウイルス感染症の影響が長引く中、全国各地から様々な相談が寄せられ、「死にたい」と訴える相談者も少なくありません。誰が、どんな悩みを抱えているのか。ホットラインの窓口に立つ特定非営利活動法人World Open Heart(WOH)の阿部恭子さんにお話を聞きました。

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2020年9月に「新型コロナ差別ホットライン(以下ホットライン)」を設置し、差別に悩む感染者や家族などからの相談を受けてきました。立ち上げのきっかけを教えてください。

阿部:ホットラインを立ち上げる前の2020年6月頃、東京から帰省した大学生の家族から電話がありました。その大学生が発熱しPCR検査を受けたところ陽性が確認され、容態は回復したものの、近所にウワサが広まってしまったそうです。親戚宅に帰省させたことを責め立てる声が寄せられ、謝罪に追い込まれる事態にまで陥り、心身ともに疲弊されていました。

私は学生の頃から加害者家族の支援に取り組んできましたが、春頃からこうしたコロナにまつわる相談が増えてきました。新型コロナウイルスの陽性者は犯罪の加害者ではありませんが、陽性になった方やその周囲の家族は「加害意識」を感じて、「加害者家族の支援窓口」である私のところに辿り着くようです。

コロナ禍の差別に苦しむ人の潜在的ニーズの高さを感じていた頃、"世間学"が専門の佐藤直樹さんご本人から著書『同調圧力』をいただきました。『同調圧力』では、感染者が謝罪に追い込まれる日本独特のルールや世間の闇の正体について解説し、「生きづらいのはあなたのせいじゃない」というメッセージを発信しています。全国の自治体や弁護士会などがすでに医療や法律、生活面の相談窓口を設置していますが、世間の不当な差別に苦しむ人のための専用窓口は、私の知る限りではまだありませんでした。この隙間の支援の必要性を感じて、ホットラインを立ち上げました。加害者家族の相談を受けてきた経験を役立てられるという手応えも感じていました。

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2020年9月の設置から今日までに寄せられた件数は約70件。どんな相談があるのでしょうか。

阿部:ある女性は、夫の感染による濃厚接触者としてPCR検査を受けたところ陽性が確認され、自分や子どもが周囲に感染を広めてしまったのではないかと心配していました。自宅療養中、目が覚めるとすぐにSNSで周囲の人が感染していないか確認したり、不安がどんどん膨らんで、夜も眠れなくなってしまい、たびたび電話がありました。結果的に周囲に陽性者は出ず、無事社会に復帰されましたが、ずいぶん神経をすり減らしていました。

また、外出先で発生したクラスターの影響で陽性が確認され、それを家族にうつしてしまったという相談者は、高齢の家族が亡くなり自責の念に駆られていました。他には、感染者報道をきっかけに、インターネット上に感染者を特定するような書き込みがなされ、感染者や家族が誹謗中傷により転居しなければならない事態に発展するケースもあります。相談者の中には「死にたい」と訴える人もいて、感染者が抱える絶望感は深刻です。

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そういった相談に対し、WOHではどのように対応していますか?

阿部:相談者の問題の解決に当たっては、様々な分野の専門家と連携しています。例えば、不当な解雇など法律に触れるような差別を受けたケースでは弁護士につなぎ、転居を余儀なくされてしまった人には救済のために不動産会社を紹介することもあります。明らかなうつ病の治療が必要な方には心理士を紹介して、適切な治療につなげます。

私の役割は、そうした専門家につなぐことともう一つ、相談者の"恐怖心"を取り除くことを意識しています。犯罪の加害者であれば罪を償う必要がありますが、コロナの感染者は誰かに感染させてしまったとしても罪ではありません。それでも周囲に対して同義的な責任を負わなければならないと考えてしまうのは、世間の圧力が大きく影響しています。差別に苦しむ人の状況は、その人が暮らす地域や環境によって異なりますが、「そこまで背負わなくていい」と考えを変えられるような声がけを心がけています。

コロナ禍で生きづらさを感じる人が増える中、私たち一人一人にできることはなんでしょうか。

阿部:これ以上、自死を生む社会ではいけないと強く思っています。私がこれまで支援を続けてきた加害者の家族たちの多くは、差別や排除に悩みながらも、さまざまな支援を経て社会復帰しています。加害意識に苦しんでいる感染者やその家族のケアとして、私は安易な同情や慰めではなく、具体的な社会復帰のエピソードをシェアし、自責の感覚を緩和するとともに前を向いて生きていけるようなサポートを目指しています。

そのために今、もう一つ力を入れているのが、感染者が過剰な気をつかわずに学校や職場に復帰できるよう社会環境を整備することです。今の日本社会は他罰的な風潮が強く、多くの人が見えない圧力に対するストレスを抱えていますが、新型コロナウイルスは誰もが感染する可能性のある病気です。復帰の日に「おかえりなさい」とあたたかく迎える社会、他人を許せる社会をつくっていくことがコロナ禍の課題ではないでしょうか。

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World Open Heart ✖️ Civic Force

新型コロナウイルス感染症の影響が長引くなか、過去に自然災害の被害を受けた地域では、復旧・復興の足かせとなるような二重のダメージや新たな課題が浮上しています。2020年5月から開始したCivic Force(シビックフォース)の「NPOパートナー協働事業(COVID-19)」では、コロナ禍でも地域の課題解決のために尽力するNPOをサポートし、これまでに東北や九州など5県で7団体との協働事業を展開。2021年6月からはWorld Open Heartのコロナ差別相談支援事業の運営をサポートしています。協働事業では見えにくい差別の実態を調査し、問題を明らかにするとともに、社会への発信にも力を入れます。

NPOパートナー協働事業の詳細はこちら

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