【東日本大震災から9年】いのちの大切さ 伝える資料館「閖上の記憶」
「あ!虹だ!」
2020年3月11日、宮城県名取市閖上(ゆりあげ)で開催された「追悼のつどい」。黙祷を捧げる2時46分が過ぎた頃、真っ青な空に大きな虹がかかりました。集まった人々が一斉に放った風船の鳩が、虹に向かって飛んでいるように見えました。
毎年恒例となっている、この追悼行事を主催したのは、津波復興祈念資料館「閖上の記憶」を運営するNPO地球のステージです。閖上地区では、かつて約5000人が住んでいましたが、津波で更地となり、閖上中学校では14人の生徒が犠牲になりました。震災から約1年後、旧閖上中学校の入り口に建てられた閖上の記憶は、慰霊碑を守る社務所として、また閖上の人々が立ち寄ったり、震災の記憶を後世に伝えたりする場所として人々の拠り所となっています。
例年、数百人規模で実施される追悼のつどいですが、今年は新型コロナウイルス感染症の影響で、参加者の公募は中止。遺族のみで行われることとなりました。しかし、暴風警報が出るほどの強風のなか、当日は遺族以外にも遠方からの参加者や名取市長も立ち寄り、少人数ながらもみんなで鳩風船にメッセージを書きました。
「今年も絶対に参加すると決めていました」。こう話す20代の女性参加者は、閖上の記憶が力をいれている伝承事業の一つ「語り部」の話をきっかけに参加し、以来、毎年必ず来ると決めているそうです。ほかにも「資料館を訪れたことが縁で毎年3月11日には閖上で過ごしている」「ここで聞いた話が忘れられなくて」という人も多く、語り部の方々と再会を喜び合う場面も見られました。
また、岩手県の内陸部から参加したご夫婦は「被災地の状況を知りたくて初めて閖上に足を運びましたが、何もなくなっていて驚きました。鳩風船にメッセージを書くことで、亡くなった方にみんなの思いが届けばいいです」と話していました。
東日本大震災は、一人一人に悲しい記憶を残しました。でも、その記憶を他の誰かの命を守るための教訓として伝えることで、亡くなった方々の生きた証を残し、同じようにつらい思いをする人を一人でも減らしたいーーそんな語り部たちの思いが来館者の心を揺さぶり、再びこの資料館を訪れたい、という思いにさせています。
名取市には、震災遺構として保存されている建物などがありません。だからこそ、資料館では津波の脅威が伝わるものを来館者に実際に見て感じてほしいと、遺族や地域住民から提供された遺品などを展示しています。
Civic Force(シビックフォース)は、地球のステージの地道な伝承の取り組みをサポートしています。
https://www.civic-force.org/activities/higashinihon/index.html
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