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被災地を支援する

2013/05/29

【NPOパートナー協働事業】職能集団「岩手県臨床心理士会」の挑戦

前回に引き続き、岩手県でこころのケアや臨床心理士の育成・指導を続ける岩手県臨床心理士会の活動についてお伝えします。Civic ForceのNPOパートナー協働事業では、同会のような“職能集団”へのサポートを通じて、被災地の将来に真に役立つ支援活動に力を入れています。

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「1割が重症精神障害相当 応急仮設住宅入居者健康調査で判明」――2013年5月14日、宮城県の地元紙「三陸新報」のトップに、衝撃的な見出しが載りました。記事によれば、宮城県と気仙沼市が応急仮設住宅の入居者を対象に実施した2012年度の健康調査結果では、アンケートを回収した3,184人のうち、1割近くが精神的に重い苦痛を訴える「重症精神障害相当」。「震災で家族や財産を失い何をやっても気分が晴れない」「将来が不安で眠れない」「津波がフラッシュバックする」と、震災から時間が経つにつれ、精神的な苦しみが増し、飲酒に頼ったり暴力に走るケースもあるようです。

そうしたなか、臨床心理士の地道なこころのケアを通じて、徐々に心の安定を取り戻し、自殺願望が強かった人に対してカウンセリングを続けることで、「自殺することは横に置いて、とりあえずボチボチ生きていこう」と思うようになった人もいると言います。しかし、大きな苦しみや悲しみが癒されるには、時間が必要です。劇的な効果を短期間であげることは難しいため、臨床心理士は細く長く、いかに継続した支援ができるかが復興の課題の一つとなっています。

Civic Forceのパートナーである岩手県臨床心理士会は、「事業の継続性」という面で高い評価を受けている組織の一つです。被災県における“職能団体”として、県や市町村、民間機関と協働しながら、県民を対象とした電話相談や支援者となった県職員に対するストレス対策、仮設住宅での心理教育・リラクゼーション、遺族ケアセミナーなど、多岐にわたる事業を実施しています。なかでも、宮古市の仮設住宅での“ストレスマネジメント”の取り組みは、当初日本赤十字社との共同事業ではじまり、同社の撤退後も、同会単独でリラクゼーションや心理相談の活動を続けています。同会の中谷敬明さんは「震災から半年、1年と経過するにつれ、外部の支援団体は被災地から撤退していきますが、こころのケアは5年、10年のスパンで考えなければならない」と、外部団体が撤退した後のフォローアップにも力を入れています。

支援活動を長く継続していくには、臨床心理士たちの能力向上や精神的ケアが不可欠です。臨床心理士が対応する領域は保健・医療、教育、福祉、産業、司法など幅広く、それぞれの臨床心理士がこころのケアに関することをなんでもできるとは限りません。知識・経験不足などから適切なケアができずに二次被害*を与えてしまったり、逆に被災者の壮絶な体験を目前にして、臨床心理士がダメージを受けてしまうこともあります。また、発災直後は、ショックの緩和や近しい人を亡くした被災者をケアする「グリーフケア」などのサポートが中心でしたが、現在は、より広域な地域全体を見据え、地域の復興状況、生活基盤の現状も理解・把握し、「コミュニティの再生」を意識した上で、被災者と接することが求められています。

resizeHP用岩手県臨床心理士会・研修2.jpgそこで、岩手県臨床心理士会では沿岸地域の臨床心理士を対象とした研修を継続的に実施し、被災者のニーズに即した、具体的で実践的な知見・技術を伝えています。参加した心理士の一人は「日々目の前の業務に追われているが、改めて研修を受けることで、技術的な学びだけでなく、これまでの活動を整理し自身の存在意義をとらえ直すことができた」と言います。

被災地の臨床心理士を育てる研修は、実は行政などの各種助成金が下りにくい内容ですが、岩手県臨床心理士会は継続的な支援の必要性を認識し、確固たる思いで活動を続け、研修事業にも力を入れています。Civic Forceのパートナー協働事業では、必要とされながらも行政の支援が届きにくいこうした取り組みを積極的にサポートし、「使い勝手の良いお金」を有意義に活用してもらうことで、組織の成長と被災地の将来に役立てるような事業の実施に努めています。

*二次被害とは:震災にあうなどの直接的な被害を「一次被害」とすると、周囲の人に相談したことにより、被害者が二次的に精神的苦痛や実質的な不利益または被害を受けることを言います。