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被災地を支援する

2018/02/06

【九州北部豪雨】熊本地震の看護経験を被災地に引き継ぐー九州キリスト災害支援センター

2017年7月の「九州北部豪雨」から7カ月が経ちました。記録的な大雨により福岡・大分の両県で甚大な被害が発生し、多い時には2000人以上が避難。現在も1300人以上が仮設住宅などでの生活を余儀なくされています。看護師として福岡県朝倉市の避難所へ入り、避難者への支援や行政のサポートなどを続けてきた九州キリスト災害支援センター看護部の山中弓子さんに、これまでの活動や被災地の現状・課題について聞きました。(九州キリスト災害支援センター看護部は、Civic Force「パートナー協働事業」のパートナーです)

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ー発災後、朝倉市では最大11カ所に指定避難所が置かれ、1200人以上が避難していました。避難所では、どんな支援が求められ、どのような体制で対応してきましたか?

発災5日目に看護師として杷木中学校の避難所に入りました。そのときすでに防災士の方が避難所の運営を担い、生活スペースと物資スペースのエリア分けなどはできていました。しかし、衛生面・看護目線で改善できる点が多く見られたため、女性用更衣室や様式トイレの設置、トイレ前にあった配膳場所の変更など、できることから一つ一つ変えていきました。

避難所では、社会福祉協議会や保健師のほか、DMAT(災害派遣医療チーム)やJVOAD(全国災害ボランティア支援団体ネットワーク)、赤十字、ピースウィンズ・ジャパンなど多くの団体と協力して支援を行いました。地元の行政だけでは不慣れだったり手一杯ななか、調整役を担う団体が私たち専門団体の要望を汲み取り、様式トイレを調達・購入するなど柔軟に動いてくれて助かりました。

ー発災から時間が経つにつれ、避難所での医療・看護面での課題はどのように変わっていきましたか?

発災直後の避難所では、外傷の手当など医療的な対応を求められることが多く、熱中症が多発した夏には行政や支援団体が集まる会議でボランティアセンターへの看護師派遣などを通じて熱中症対策に力を入れるよう提案しました。他方、避難所での生活が長引いてくると、便秘や血圧、不眠などメンタル面からくる不調を訴える相談が増え、生活面の要望を受けることもありました。

ー避難所での看護師の役割とは?

たとえば、震災の影響で病院に通えなくなってしまった避難者は、それまで体の不調から生活の悩みまで何でも医師に相談していましたが、避難所ではそれができません。そこで、避難所に常駐する看護師がその代わりの役割を果たしました。避難時には住民から行政への不満が噴出してしまうことがあります。小さなイライラは体調不良にもつながります。ゴミの分別や物資の分配など、避難者へのお願いごとをイラスト付きの柔らかい表現で掲示するなど、細かいことでも住民の方がストレスをためないよう注意しました。問診するだけでなく、世間話をしながらさりげなく話を聞き、福祉課など専門の部署へつなぐこともありました。

ー九州北部豪雨は、熊本地震の翌年に起きた災害です。これまでの経験は生かされていますか?

1995年の阪神・淡路大震災で被災し、神戸市の避難所運営に携わったのを機に看護師資格を取得しました。熊本地震では、震災の翌日に被災地に入り、避難所や仮設住宅の巡回、母子の健康相談などに取り組みました。熊本ではボランティア看護師の窓口や受け皿がなく、医療支援団体間の連携が困難でしたが、杷木中学校では看護師が24時間体制で交代で常駐し、昼と夜で情報が分断することなく避難者の方々の状況を把握できました。”見守り体制”の大切さを地元の保健師に引き継ぐこともできたと思います。

野菜不足による便秘が脳梗塞などにつながる事例や夏場の食中毒など、これまでの経験をもとに、フェーズを先に読みながら動くことも心がけました。避難所に残る人と出て行く人、在宅避難者とでは異なる対応が求められるため、留意すべき事項などを地元の行政や保健師に伝えたりもしました。

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ー2017年11月、朝倉市では残っていた最後の避難所が閉鎖されましたが、現在も1300人以上が仮設住宅などで暮らしています。現在、どのような支援が求められていますか?

仮設住宅は保健師の巡回などがありますが、生活困窮者や身体に障がいがある方など支援にもれてしまう人が出ないよう対策が必要です。また、在宅避難者は健康や生活の心配などを相談する窓口がない点が課題です。現在、避難所でのつながりから、今も寄せられるさまざまな相談事に応えたり仮設でのイベントのサポートなどを続けていますが、やはり地元行政や医療関係者への引き継ぎやノウハウの伝授はとても大切だと実感しています。

(写真:仮設住宅集会所で実施されたコンサート)

ー今後の目標を教えてください。

資金・人員体制の面で、私たちの組織だけでは災害直後に支援に入ることは難しいため、日頃からネットワークを構築する重要性を感じています。看護支援は緊急期のみで終わってしまうことが多いですが、避難所では数カ月の支援が必要とされます。日赤や看護協会、AMDA、災害看護支援機構などの医療団体、行政やJVOADなどのネットワーク組織と連携しながら、「災害時、ここに聞けば看護や衛生面は対応してもらえる」という安心感のある支援が実現できればと思います。