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被災地を支援する

2018/04/16

【九州北部豪雨】「一人ではない」と伝えたいーひちくボランティアセンター(後編)

2017年7月の九州北部豪雨から10カ月以上が経ちましたが、前代未聞とも言われる大量の土砂や流木の被害を前に、復興に向けた道のりはまだ半ばです。Civic Force九州北部豪雨支援「NPOパートナー協働事業」では、大分県日田市で活動する「ひちくボランティアセンター」へのサポートを通じて、地域の復旧・復興を後押ししています。前編に続く後編は、被災地の現状やひちくボランティアセンターの活動についてお伝えします


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入学する子どもたちのために

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新しい平屋の家に、大型トラックから次々と荷物が運び込まれていきます。「明日からこの家で新しい生活が始まります」と話すのは、日田市大鶴地区在住の後藤晃子さん。九州北部豪雨で自宅が全壊し、避難先での暮らしを余儀なくされました。大家族の後藤さんにとって「避難生活は少し窮屈」と言います。元気いっぱいの子どもたちが周囲に迷惑をかけていないか、部屋が狭くなってお互いに気を使いすぎていないか、命は助かったものの災害後にさまざまな心配事が増えました。

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街を離れる人や住宅再建に踏み切れない人も多いなか、後藤さんは悩んだ末に、もともと住んでいた場所の近くに新しい家を建てることを決めました。それは、4月から2人の子どもがそろって小学校と中学校に入学するためです。「慣れ親しんだ場所から、新しい気持ちで通ってほしい」と語る後藤さん。子どもたちも「新しい家は広くて嬉しい。学校に行くのが楽しみ!」と笑顔を見せてくれました。

 

「地元の人と一緒に街の復興を見届けたい」

農地の復旧作業や被災した家屋の片付け、度重なる引っ越しなどは、被災した人々にとって大きな負担となっています。特に、足腰が不自由な高齢者や障がい者、小さな子どもがいる家庭などは、自力での作業が難しい場合もあります。こうしたなか、後藤さんのような地域の人たちの大小さまざまな困りごとを聞き出し、行政やボランティアと連携して多様で柔軟な支援活動を続けているのが、「ひちくボランティアセンター」です。

ひちくボランティアセンターは、日田市で活動してきたNPOなど10団体によって立ち上げられました。2017年8月に閉所した日田市災害ボランティセンターの活動を引き継ぐ形で、全国のボランティアや地域の人々とともに、被災した家屋や農地の泥出しのほか、後藤さんように引越をする家庭の手伝いなどを続けています。また、地域住民と行政との意見交換の場づくりや復興を盛り上げるためのイベントの開催なども行っています。

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事務局を務める松永鎌矢さんは、大分県中津市出身。大学を卒業後、災害支援を専門とする愛知のNPO法人「レスキューストックヤード」に入社し、九州北部豪雨の際には発災直後に大鶴地区に入りました。東日本大震災や熊本地震などこれまでの経験を生かしながら、日田市災害ボランティアセンターの運営をサポートしてきました。

「市のボランティアセンターが閉鎖されても、まだまだ支援を必要とする人がいる」と、2017年10月末にレスキューストックヤードを退職。息の長い支援を通じて地元の人たちとともに街の復興を見届けたいと、大分に戻り、地域の主体的な復興を後押ししています。毎年のように災害に襲われる日田から、避難行動の教訓や防災意識を高めるためのノウハウを全国に発信する活動にも力を入れています。

 

「かけた情けは水に流せ 受けた恩は石に刻め」
 

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「行政との連携など調整役としての能力が高い」。松永さんをこう評価するのは、ひちくボランティアセンターの地元世話人団体「鶴の恩返し」代表の江田泉さんです。大鶴地区出身の江田さんは「あの日はたまたま自宅にいて、足の不自由な母を連れて屋根に上がり、救助された」と言います。家族は全員無事でしたが、「あのときもし私が自宅にいなかったらどうなっていたか・・」と、脳裏に焼きついた洪水の恐ろしさを語ります。

日田市の住居被害は約1300棟。江田さんの自宅も床上浸水し、今も避難生活をおくっています。しかし、自宅の再建よりも先に、地域の人々の悩みや困りごとの解決に奔走しています。町で困った人を見つけては手をさしのべる江田さんの姿に、周囲からは「自分も大変なのになぜ?」と問う人も少なくありません。

「被災した私が動くと、逆に手を差し伸べてくれる人がいる。熊本地震の被災地に行ったときは ”支援者”でしかいられなかったけれど、今回は被災者の立場に立ったからこそできることがある。被災して不安を感じている人に『一人ではない』と伝えたい。復興とは、助けたり助けられたりしながら、日本が失いつつある”助け合い”の文化を取り戻すことだと思う」。

江田さんらが拠点とする事務所には、大きく「かけた情けは水に流せ  受けた恩は石に刻め」という文字が掲示されています。熊本の書道家が揮毫したというこの言葉は江田さんの信条。ひちくボランティアセンターのスタッフや全国からやってきたボランティアも大きな影響を受けています。「外から来たたくさん人に助けられてここまで来たが、そろそろこの町の人が立ち上がるときが来ている」と江田さんは語ります。

ひちくボランティアセンターでは、引き続き日田の人々の主体的な復興の動きをサポートしていく予定です。

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