【インタビュー】「仲間とともに、大川の未来を拓く!」-Team大川 未来を拓くネットワーク 只野哲也さん
東日本大震災の津波で児童や教職員ら84人が犠牲になった宮城県石巻市立大川小学校。悲しい記憶と向き合いながら心を一つにした卒業生らが、2022年2月、任意団体「Team大川 未来を拓くネットワーク」を設立し、震災遺構大川小学校でのガイドや、全国各地での講演活動を行ってきました。2025年2月から一般社団法人となり、次のステージに向けた事業を開始しています。
大川小学校ガイドを行う代表・只野さん(右)、副代表・今野さん(左)
Civic Forceの東日本大震災NPOパートナー協働事業では、2025年4月から同団体の活動を応援しています。Team大川では、「大川小学校周辺に、もう一度、あたたかなコミュニティを」と、石巻市から借り受けた土地を活用して、地域内外の人が集える拠点づくりを進めています。飲食・物販・ワークスペースの設置・整備のほか、カフェを活用した活動も。また、大川小学校ガイドを次世代に受け継ぐべく、学生との連携強化にも取り組みます。
次々と挑戦を続ける一般社団法人Team大川 未来を拓くネットワーク代表、只野哲也さんに地域の現状や団体の活動、今後の展望についてうかがいました。
―震災後、非居住区となった大川小学校周辺は年々人口が減っているのでしょうか。現在の状況について教えてください。
もともと減っていた人口が、震災をきっかけにさらに減少しています。雇用が少ないため、若者は他地域に流出しますし、空き家や空き地も増えていますね。災害危険区域に指定され、住むことができない地域となったことで、震災以前より地域の課題であった過疎化などの社会問題が、震災により加速し顕著化しています。
―2021年から震災遺構となった大川小学校には全国から多くの人が訪れている印象ですが、現在はどのような状況ですか。
2023年は同年公開のドキュメンタリー映画『「生きる」大川小学校 津波裁判を闘った人たち』の反響もあり、来訪者数は年間8万人と過去最多でした。国内だけでなく欧米など海外からも来てくれます。ただ、交通の便が限られるので、学生などは気軽に来られない難しさがあります。最近は来訪者が減っていますし、一度きりの方も多くて。今後はリピーターの数を増やしたいです。
―Civic Forceのパートナー協働事業で実施予定の「コミュニティ・デザイン・プロジェクト」は来訪者を増やすきっかけになりそうですね。コミュニティ拠点整備では、どのようなことを実施する予定ですか?
大川小学校周辺の地域の人、外部の人、だれもが気軽に集える場所をつくりたいと考えています。まずは、現在コンテナ事務所のある拠点周辺の草刈りや植樹、花壇手入れなどの環境整備、DIY体験を兼ねたワークショップを定期的に開催予定です。また、コンテナ事務所を開放して交流の場にしたり、子ども向けに絵本の読み語りをしたり、さまざまな企画を実施できたらなと。
大川小学校の向かい側にあるコミュニティ拠点整備予定地
―外部から講師を招いてのワークショップも計画されています。どのような内容を予定していますか?
大工さんの力を借りて、ウッドデッキ、ベンチ、かまどなどを作る体験を考えています。他にも花の講師を招くなど、季節ごとのイベントを実施したいですね。あとは「まんが日本昔ばなし」のような、地域の由来を知るための物語を一緒に作る企画にも興味があります。「あそぶ・たべる・まなぶ」の体験を通して、子どもたちの記憶に残る場所にしたいです。
―もう一つの事業、「教訓を未来に伝える新たなステージを目指す活動」では大川小学校の定期ガイドに学生も関わってもらうようですね。今後どのように若い世代と連携しますか。
これまでは聖学院大学(埼玉県)と連携し、お試しで学生に大川小学校のガイドをしてもらいました。今後は石巻西高等学校(宮城県)など地元の学生との連携を図っていきたいです。石巻西高校とは、すでに他のプログラムで協力体制を確立しているので、これを機に「伝承活動」など大川小学校への関心を深めてもらい、よりよいつながりへ発展させていきたいと考えています。まずは学生自身にガイドを受けてもらい、その体験をもとに自らの言葉で語ってもらいたいですね。実際に震災を体験していなくても、伝承するという行為によって受け継がれていくものがあると思うので……。
―これまでボランティアも多数受け入れていますが、学生の参加はどのような状況ですか。
学習支援の繋がりで地元の高校生ボランティアがいるほか、2022年からは毎年お盆時期に「おかえりプロジェクト」を開催していて、大学生ボランティアが15〜20人ほど参加してくれています。全国から寄せられたメッセージを紙灯籠として大川小学校に灯す「おかえりプロジェクト」は、震災の犠牲者や先祖への追悼に加え、地元を離れた人たちが安心して帰って来られる場にしたいという思いが込められています。整備中の拠点をはじめ、若い世代が気軽にチャレンジできる場や機会をどんどんつくっていきたいです。
―Civic Forceのパートナー協働事業にかける想いを教えてください。
法人としては初年度の事業となるので、計画をしっかり立て、責任感を持ちながら取り組んでいきたいです。次年度以降は自分たちでしっかり事業を継続できるように、初年度はCivic Forceの支援のもと自走できる基盤をつくっていきます。団体としては特に子どもや若い世代をターゲットとしているので、彼らがTeam大川のもとへ遊びに行きたいと思えるような、新しいコミュニティづくりを実現させます。
震災遺構大川小学校
―全国各地での講演や各種活動を通じて、団体としてどのようなメッセージを届けたいですか。
私たちは幼少期の被災経験を通して、「仲間とともに助け合うこと、家族やふるさとを守ること」の大切さを強く感じています。現代の日本ではいじめや若者の自殺といった問題が増えていますが、団体としては震災だけでなく、そのような社会課題にも向き合っていきたいです。子どもの命を真ん中に置いた社会を目指して、「否定しない、強制しない、丁寧に」を柱に、若い世代の学びやチャレンジにつながる体験を企画していけたらと。そして「震災や困難なことが起きたとしても、家族・友人・仲間とともに向き合う強さを身につけよう」と伝えたいです。困難な状況や崖っぷちの環境で自分の良さを活かして歩み続けるには、多くの人との関わりがなくてはなりません。だからこそ、仲間たちとともに「震災や困難な状況と”向き合う”こと」について、聞き手も私たち語り手も一緒になって考える講話やガイドを展開していく必要があると思っています。
「あそぶ・たべる・まなぶ」を柱に、子どもの命を真ん中に置いた災害に強い社会、若者が健やかにチャレンジできる未来を実現させたい。過去の経験と教訓を胸に、より良い明日に向かって踏み出す「一般社団法人Team大川 未来を拓くネットワーク」の新たな一歩をCivic Forceは応援します。
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※5月24日、Civic Forceスタッフが大川小学校ガイドに参加しました。
<スタッフの感想>
当日は大川震災伝承館・大川小学校にて、東日本大震災における体験や、10年後の大川をともに考える時間が設けられました。小学生の頃の思い出を交えながら震災体験が語られたことで、仲間と過ごした日常の尊さが心に響きました。つらい記憶だけでなく、彼らの「楽しかった時間」を共有してもらっている感覚があり、とても温かな気持ちになりました。一方で、その日常が突然3月11日に変わってしまったことの対比が災害の恐ろしさを際立てているような体験でした。
次回のガイドは7月5日を予定しています。詳細は「Team大川 未来を拓くネットワーク」のInstagramよりご覧ください!
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