子どもたちが安心して学べる場をつくる
新型コロナウイルス感染症の影響が長引くなか、過去に自然災害の被害を受けた地域では、復旧・復興の足かせとなるような二重のダメージや新たな課題が浮上しています。2020年5月から開始したCivic Force(シビックフォース)の「NPOパートナー協働事業(COVID-19)」では、2022年3月までに東北や九州などで活動する9団体のプロジェクトをサポートし、コロナ禍でも地域の課題解決のために尽力するNPOの取り組みを支えています。その一つ、福島県福島市で学習支援「カーロでスタディ」を続ける、公益財団法人日本YWCA カーロふくしまの佐藤純子さんにお話を聞きました。(Civic Forceとカーロふくしまとの「NPOパートナー協働事業(COVID-19)」に関する詳細はこちら)
Q コロナ禍で始まった「カーロでスタディ」とはどんな取り組みですか?
2020年4月、新型コロナウィルス感染拡大の影響で、学校の臨時休校や短縮授業などの措置が始まりました。その間、子どもたちは自宅学習を余儀なくされ、仕事や家庭生活を抱える保護者の負担が増えて経済的・時間的に大きなプレッシャーとなりました。家庭環境に左右される自宅学習のストレス、休校によるコミュニケーションの場の喪失などの課題は、2011年3月11日の東日本大震災以降、福島と福島の子どもたちが抱えてきた問題と似ています。目に見えない放射能やウイルスに対する不安や恐怖は、子どもや親たちの気持ちを萎縮させ、学力にも影響が出てしまいます。東日本大震災の後、福島の子どもや親たちを支援してきた経験から、私たちはコロナ禍において子どもたちの学びとコミュニケーションの場をつくることが不可欠だと感じました。
そして、いつでも安心して学び、交流できるセーフスペースをつくろうと始めたのが「カーロでスタディ」です。
小中学生を対象に、月2回 午前と午後、日本YWCAの活動スペース「カーロふくしま」を解放し、休校などによる授業の補助や家庭学習のサポートなどを行っています。各回の参加定員はソーシャルディスタンスやきめ細かい学習サポートのため5人までとしています。2021年5月から2022年3月までに、計44回開催し、延べ106人の子どもたちが参加してくれました。
Q 子どもたちの居場所づくりや学習支援を続けていくには、地域の人たちの協力が大切です。どんな人が運営に携わっていますか?
学習支援の講師を担当するのは、地域の大学生です。大学生は、コロナ禍で家庭教師などのアルバイトが減ったり、保護者からの仕送りが減額したり、さまざまな影響を受けています。また教員や福祉の現場で働くことを目指す若者たちは、教育実習の延期や短縮によって、子どもたちと接する機会が著しく減少し、経験の場が失われていました。だからこそ「カーロでスタディ」は、小中学生だけでなく、大学生の支援にもつながるプロジェクトを目指しました。
講師の採用にあたっては、福島大学の教授より学生の紹介を受け、述べ24人が協力してくれました。家庭教師の経験がある学生や教育・福祉業界で働きたいと考えている若者など、子どもたちの気持ちや心身の状態に寄り添いながら、丁寧に学習サポートを続けてくれました。
このほかカーロでスタディでは、学習支援と並行して、冬休みに子どもたちに向けた交流会を開催しました。これらのイベントも学生講師たちが自主的に考えて実施し、参加した子どもたちは「とても楽しかった」と笑顔を見せてくれました。学生たちの主体的な取り組みは、多様な性や多様性について考える会の開催などにもつながり、誰もが尊重して認め合える社会をつくるにはどうすればよいか考える機会を生み出しています。
また、Amazonの寄付プログラムや地域内外の支援団体から野菜や果物などの食料や支援物資を受け入れ、学習支援に参加した子どもたちに届ける活動も行っています。この間、約30団体が加盟する福島市子ども食堂NETへの加入も果たしましたが、食とは直接関係のない学習支援の取り組みを行う私たちが子ども食堂のネットワークに入るのは市内では初めてのことで、子どもの居場所づくりの裾野が広がっているのを実感しています。
Q コロナ禍での運営は大変な面もあったのではないでしょうか。
2021年9月は「福島県まん延防止等重点措置」により、休校や変則登校が生じたことを受け、月3回に増やして開催しました。
まん延防止重点措置の期間中の開催は、Zoomなどを利用したオンライン学習会も検討しましたが、子どもたちからオンラインより対面のほうが良いという意見があり、講師からも「きめ細かい対応が難しい」「学習だけではなく交流にも主軸をおきたい」などの意見があり、対面での開催を決行しました。感染対策を徹底しながらの実施は、大変な面もありましたが、子どもたちの笑顔を見ることができ、”居場所”として機能できたのではないかと感じました。
Q 「カーロでスタディ」を続けてきたよかったことや、学習支援を通じて見えてきた課題について教えてください。
私たちカーロふくしまは、もともと日本YWCAの東日本大震災被災者支援の拠点として、福島の女性や子どもの心身の安全・安心を目的に、「リフレッシュ(保養)プログラム」や家族単位型保養「セカンドハウスプログラム」などの活動を続けてきました。「カーロでスタディ」はこうした経験とネットワークを軸に実施していますが、コロナ禍での活動を通じて、子どもやその親たちと信頼関係の大切さを改めて実感しています。
「カーロでスタディ」に通う子どもの中には、人知れず悩みや不安を抱えていることがありますが、月に数回でも顔を合わせて会話を積み重ねていくと、一人一人の成長や考えが理解できるようになります。例えば、ある中学生は、2011年の震災後の保養プログラムを通じてつながりがありましたが、口数が少なく多くを語らない子でした。しばらく急に休んで心配したこともありましたが、回を重ねるごとに心を開いてくれたのか、ある日突然、「いつもありがとうございます!」と元気な声で伝えてくれました。それを聞いた講師の学生も嬉しかったようです。
また、いつも元気な小学生がある日、私のところにぴたりとくっついて、「学校に行きたくない」とつぶやいていたことがありました。いつもと様子が違ったので気になって、後から母親にそっと電話して様子を伝えました。しばらくするとまた元気な顔を見せてくれたのでほっとしましたが、こうした経験を積んでいくと、少しずつ子どもたちの小さなサインに気づいたり、信頼を寄せてくれるのかなと感じられたり、学習支援の取り組みを始めてよかったなと思います。講師の学生たちも子どもたちと一緒に大きく成長しています。
Q 2022年6月から「NPOパートナー協働事業」の2期目が始まります。これまでの経験を生かして、今後どんなことに挑戦したいですか?
福島市のまちなかに定着しつつある「カーロでスタディ」をこれからも続けていきますが、地域にはまだ学ぶ機会や居場所のない子どもたちがたくさんいると思います。2期では、地域の町内会や商店などと連携してポスターを掲示するなど、学習支援の開催日程や交流会の情報などをより広くアピールしていく予定です。また、「出張版カーロでスタディ」と題して、遠方の参加希望者にも学ぶ機会を提供していきたいと考えています。実施にあたっては、福島市郊外の子ども食堂と協力して、夏休みや冬休み期間中に行う予定です。そして、こうした活動を続けていくための組織基盤づくりにも力を入れていきます。
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