【インタビュー】はんこイラストレーター・白幡美晴さん(NPO法人 森は海の恋人)
東日本大震災発生から15年。世代や地域を超えて災害に強い社会づくりを目指すための公募企画「#わたしの3.11 〜15文字で伝えるメッセージ」の一環で、Civic Forceは2026年3月20日、「特製オリジナル防災カード」を発行しました。
防災カードの表紙は、受賞作品(最優秀賞、優秀賞、ユース賞)の「15文字のメッセージ」と、宮城県気仙沼市在住のイラストレーター・白幡 美晴(しらはた みはる)さんによるイラストの組み合わせで全4種類が完成。

各15文字のメッセージに寄り添うように描かれた優しい風合いのイラストは、見る人の心をホッと癒してくれます。緊急時の緊迫した場面でも、平時に改めて情報を整理するときでも、白幡さんの描くやさしい風景や動物たちのイラストには、見る人が一呼吸おき、安心して情報に向き合える力があると感じます。そんな思いから、今回のイラストを白幡さんにお願いしました。
今回は、「消しゴムはんこ絵」を通じて気仙沼の美しい自然や魅力を伝える白幡さんに、イラストレーターになったきっかけや作品に込めた想いなどをお聞きしました。

白幡美晴さん(写真左)
気仙沼市生まれ。大学・大学院で中国語学を専攻。香港や上海の在外公館で勤務後、気仙沼に戻り、小学校の日本語補助講師として5年間勤務。現在は「NPO法人 森は海の恋人」の事務局で事務・広報を担当。東日本大震災の被災経験を機に、消しゴムはんこ絵のイラストレーターとしての活動を始め、国内外での個展を多数開催。(ホームページ)
2009年設立。宮城県気仙沼市を拠点に、「豊かな海を育むためには、豊かな森が必要」というエコロジカルな視点で、「森づくり」「環境教育」「環境保全」の3分野を軸にさまざまな活動を展開。Civic Forceでは震災後、同団体とのパートナー協働事業で「海と向き合う復興まちづくり」、自然環境調査、体験ツアー担い手育成事業を支援。(ホームページ)
───はじめに、はんこイラストレーターとして活躍されるようになった経緯を教えてください。
東日本大震災の被災経験が大きなきっかけとなりました。発災後、電気のない間はプリンターが使えず、印刷ができない状況でした。そんな中、実家で大きな消しゴムとカッター、インクを見つけて、それらで消しゴムはんこを作り始めました。勤務先の「森は海の恋人」の代表印は津波で流されてしまったので、団体の会員さん向けの封筒に、代表印の代わりとなるはんこ絵を押して使うようになりました。気仙沼の特産物である牡蠣やホタテ、ワカメなどをモチーフにした消しゴムはんこが活動の始まりです。

───震災前後の気仙沼の変化を肌で感じてこられたご自身の経験は、イラスト制作にどのような影響を与えていると感じますか。
震災後、多くのものが流出し、建物がなくなった気仙沼に戻ると、「いつも見ていた気仙沼の景色が失われてしまった」と、これまでにない衝撃を受けました。街は少しずつ復興していきましたが、ご年配の方々が「自分たちの知っている気仙沼じゃない」と語るのを耳にすることもありました。そうした背景もあって、地域の方々が大切にしてきた自然豊かな気仙沼をイラストに描き、伝えていくことで、心の支えになれたらと思ったのです。私自身、変わらない自然風景にたくさん力をもらいました。
───はんこ絵は独学ですか?制作の過程や期間について教えてください。
はい、独学です。最初はパーツのみの制作でしたが、少しずつ素材が増えていき、それらを組み合わせるようになりました。最終的に一つの風景を制作する手法ができあがるまでに、2年ほど経っていたと思います。意図的に確立した手法というより、気づけばパーツが集まり、「自然と風景になっていた」感覚です。その過程は、「被災後の復興の様子」にも通じるなと感じています。震災から15年を経て、気仙沼の街も復興しましたが、消しゴムはんこのイラストの中の風景もずいぶん豊かになりました。

───作品の対象やテーマ、制作時に意識している点についてお聞かせいただけますか。
生まれ育った気仙沼で見てきた風景を「誰かに見せたい」という想いで、季節ごとの移り変わりを意識しています。たとえば、今回の防災カード 「ウサギ(オリジナル)」(※下部画像)には、4〜5月頃の海の色と季節の植物を描きました。地元の人が見てもすぐわかるように、同じ場所でも季節によって異なる気仙沼らしさをテーマに表現しています。

───どの作品も温かみのある色合いで、どこか懐かしさを感じさせる風景ですね。
海外の人からもそう言っていただくことがあります。見ていただく方の記憶にあるものや風景とリンクするのではないでしょうか。私自身も海外に住んでいた頃、童話に出てくるような景色に出会うことがあり、そのたびに気仙沼の美しい風景を思い出しました。そこから故郷への想いが一層強くなり、現在のイラスト制作につながっています。1年に1回しか見られない風景もあるので、それらをポストカードとして、まだ気仙沼を訪れたことのない方々にも見ていただき、実際に足を運ぶきっかけになればと願っています。
また、イラストは、森は海の恋人グッズにも使用していますので、さまざまな形で気仙沼の自然や魅力を伝えられたらと思っています。
───今年で3.11から15年が経過しましたが、今どのような想いを抱いていますか。
あらためて言葉にするのは難しいですが、あっという間の15年という感覚です。特に子どもたちの成長の早さを実感する場面が多いですね。気仙沼の小学校で講師として働いていた頃、被災した生徒が言った「水道から水が出るってあたり前じゃないね」という言葉は今でも印象に残っています。あの不便な環境でともに過ごした子どもたちが、気づけば20代になっていたり、震災を知らない世代がどんどん成長していたり……。震災当時の衝撃や傷跡はずっと残っていますが、だからこそ、「今あるものを大事にしたい」という想いがつねにあります。自然や季節の移ろい、家族のたわいない会話など、同じようで違う毎日、日常の尊さを心に留めておきたいです。
───今回、防災カードにあわせて4種類のイラストをご用意いただきました。各作品に込めた想いやコンセプトを教えてください。
防災カードですので、まず、日ごろから持ち歩いていただくものであってほしいという想いを込めました。4種類のイラストが各15文字のメッセージと調和した仕上がりになったと思います。
▼4種類のイラストに込めた想い・コンセプト
① ウサギ(オリジナル)

防災カードにあわせて制作したこのオリジナルイラストでは、東北の人にとって特別な季節でもある「春」を表現しました。4〜5月頃の気仙沼の抜けるような空、ブルーグリーンの海、やわらかく揺れる春の草花、可愛らしいウサギを描き、「気持ちが明るくなるような風景」を表しています。
② 魚

「キヌバリ」という種類の魚の群れを描きました。気仙沼湾にたくさん生息している身近な魚です。震災後、まだ瓦礫が海底に残る中でキヌバリを見かけたとき、「そこにいてくれる安心感」を強く感じました。ずっと変わらずそばにいてくれる嬉しい気持ち、心の支えとなる存在を表現しています。
③ 鹿

鹿の周りに描いたホタルは、昔はどこでも見られたようですが、気仙沼の市街地で見ることは難しくなりました。自然豊かな山の中で鹿がホタルを見つめる光景を通じて、「かけがえのない存在を忘れない、忘れたくない」という思いや、「たとえ見えないとしても忘れずに、どこかにいると思い続けたい」という気持ちを象徴しています。
④ キツネ

気仙沼の2月の朝焼けを表現した作品です。実際に冬の朝焼けの中、動物が歩くのを見かけたことがあり、そこから着想を得ました。凍てつく寒さの中でやわらかく差し込む朝日、霜のついた草が光に照らされてキラキラと輝く様子、寄り添って歩くキツネの親子を通じて、「穏やかなひととき」や「心温まる風景」を表しています。
───今後の目標や展望を教えてください。
これからも目の前のことにコツコツと取り組みながら、「伝えること」、「つないでいくこと」を大切にしたいと考えています。森は海の恋人の活動や自分のイラストを通じて、自然環境に対する意識や東北への想いを広くつなげていきたいです。
───最後に読者へのメッセージをお願いします。
震災関連に限らず、気軽に東北へ足を運んでいただけると嬉しいです。もしご興味がありましたら、気仙沼市唐桑にある森は海の恋人にもぜひご一報の上、お立ち寄りください。
───白幡さん、貴重なお話をありがとうございました。
▼白幡さんの今後の個展予定
2026年7月14〜19日:「はんこイラスト展」/会場:アートギャラリー絵の具箱(東京・吉祥寺)
2026年9月 26日:展覧会&ブックイベント/会場:エコパーク さがみはら(神奈川・相模原)
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