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令和6年能登半島地震 その他 3 11を忘れない

【連載】Vol.9 被災後の職場におけるメンタルケア後編

連載「災害に備える」の2-3月のテーマは「被災後の職場におけるメンタルケア」。能登半島地震の被災地で働きながら尽力する被災者の皆さんへ、2011年の東日本大震災で被災したCivic Forceの小野寺幸恵から、今こそ必要な“心のケア”の大切さについて実体験をもとにお伝えします。前編で被災からPTSDと診断されるまでの経緯を、中編で回復へのきっかけとなった出来事について紹介し、最終回の本編では被災した後の職場やそこで働く人にとって重要だと思うことをまとめました。

休む・離れる勇気

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先回お伝えしたように、私は熊本地震で被災した方やカウンセラーの先生との出会いをきっかけに、徐々に心身の健康を取り戻していきましたが、回復するまでには長い年月がかかりました。

今になって「あのとき、そこまで思い詰めることはなかった」と思いますが、当時は「生き残った自分にできることはなんだろうか」という考えが頭から離れず、仕事を休んではどうかという助言も耳に入りませんでした。

何もしないことへの罪悪感......。これは大きな災害を経験した人の多くがもつ感情だと思いますが、もし今、無理をして自分を追い詰めている人がいたら、「休むという選択肢を選んでいい」とお伝えしたいのです。焦れば焦るほど大切なことが見えなくなり、同時に大切な何かを失ってしまいます。一度その場から離れる勇気を持つことも、長い目で見れば大切だと思います。

どんなにがんばってもうまくいかない、気力がわかない、そんな時は無理をせず休むことも重要です。

また、自分の置かれている状況と周囲との「差」にストレスを感じるようであれば、SNSなどから一度離れることをおすすめします。自分は大変な状況でも、被災地以外の場所はいつもと同じ時間が流れていて、被災した人の苦労は被災を経験した人にしかわからないのが現実です。

発災から時間が経てば経つほど、被災した人への配慮も薄れていきます。被災地には住んでいない、知人のSNS投稿にストレスを感じることもあるかもしれません。被災後は平時の精神状態とは異なる状態になりがちで、普段なら気にもとめない他者の投稿になぜか腹が立つこともあります。そういった場合、一度SNSから離れ、“デジタルデトックス”をしてみましょう。他者と自分を比べて落ち込んだり怒ったりしても何も変わらないどころか、かえって自己嫌悪に陥ることもあります。「離れる勇気、これさえあれば一歩前に進むことができると、私は考えます。

ゆっくり話す場を

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私が職場でメンタルを悪化させた要因の一つに、相談できる相手がいなくなってしまったという点があります。勤め先の施設が被災して異動を余儀なくされた関係で、これまで一緒に働いてきた上司や先輩に相談できる環境がなくなってしまい、仕事に行くのがどんどん憂鬱になっていきました。

被災後のさまざまな変化によって、私と同じような精神状態に陥る人もいるのではないかと心配していますが、被災後の職場において大切なのは、誰もが話しやすい雰囲気だと思います。被災後は互いに余裕がなく、周りに目を向けることが難しくなりがちですが、そのままではコミュニケーション不足によるミスが生まれ、心を病む人が出るなど悪循環に陥ってしまいます。円滑な業務遂行のためにも、ゆっくり話す機会を意識してもつことが大切です。

また、被災後の職場において重要なのは、寄り添う姿勢です。ミスが多くなったり、急激に痩せたり、もし職場の仲間がいつもと違う様子だったら、どうか「どうしてできないのか」「なぜやらないのか」と責めるのではなく、寄り添ってあげてください。職場の中で孤立しないよう、周りが理解し寄り添う姿勢を積極的に示すことで、本人の不安は軽減されます。「理解してくれる人がそばにいる」と分かっただけでも、前に進めるきっかけになります。

 

心を解放する時間をもって

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仕事でストレスを抱え、それが「生きる価値のある人間でなければならない」という強迫観念にも似た思いをさらに大きなものにしていました。そんな毎日の中で、私は好きな音楽を聴くことで、唯一心を奮い立たせていました。

自宅は1カ月ほど停電が続きましたが、幸いにも発電機で携帯電話の充電ができ、朝職場へ行く間に1回だけ、携帯電話で好きな音楽を聴くことにしました。通勤の途中、道端には泥まみれになった写真がたくさん落ちていて、「写真に写っている人は今どうしているのかな」「どうしてこんなことになったのか」という思いが募り、涙が溢れました。私は大好きな曲を聴きながら、歯を食いしばって職場に向かいました。曲の歌詞と自分のいまを重ねることで前に進む勇気をもらう、そんな日々でした。音源は、物資を送りたいけれど物流が混乱しているから、とにかくあなたの好きな曲を贈るから頑張って!と、友人がプレゼントしてくれたものです。

被災したからといって、昼夜がんばり続ける必要はありません。復興は人の手で遂げられるものであり、大切なのは「ひと」です。無理をしすぎて心が壊れてしまっては、元も子もありません。大変な状況だからこそ、自分が前向きになれる何かを見つけ、それを上手に使って心を開放する時間を持つことをおすすめします。

一人一人の心身の回復こそが街の復興にもつながっていくのだと思います。

「いまの自分」を受け入れ「他者のいま」に寄り添う

大変な状況に置かれた時、多くの人が強くあろうとするものだと思います。実際、私もそうでした。心が弱くてはこの状況を乗り切れない、そう思っていました。他者と自分を比べ、自分は家族を喪っていないし家も無事だったのだからくよくよしていてはいけない、「弱い自分」なんてもってのほか、落ち込んでいてはいけないと、自分に言い聞かせようとしていたのです。

しかし、それは大きな間違いでした。心の強さは、それぞれ違います。人の心に色があるなら、同じ色の人は世界中探してもどこにもいないと思います。そして、他者から見たら小さなダメージに見えても、当事者である本人にとってはかなり大きなダメージであることも十分に考えられます。だからこそ、他者と自分を比べたりしないでください。あなたにはあなたの苦しみ、傷み、苦しさがあるのです。受けた被害の大きさと心へのダメージは、イコールではありません。それは、あなたの周りにいる人も同じだということを、忘れないでください。それを理解しているかどうかで、職場の環境や人間関係は大きく変わると思います。他者が抱える傷みや弱さを、自分と比較することなく受け入れ寄り添うことは、お互いの心の健康のためにも非常に重要だということを、覚えておいてください。



ここまで、東日本大震災での自分の経験を振り返り、どう乗り越えたのかをお伝えしてきました。今までこのような話を、職場においても、そして友人たちにもしたことはありませんでした。しかし、自分の経験と向き合うことはPTSDの治療においてとても大切なことだといいます。私はこの災害支援という仕事を通じて自分の辛い経験と向き合ってはきましたが、被災後のトラウマ体験としっかり向き合ったのは今回が初めてのような気がします。これを機に、私ももう一歩前に進むことができるのではないかと思います。3回という長きにわたりお読みくださり、ありがとうございました。私の体験が今も辛い思いをしている誰かの助けになることを願っています。

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