2013/02/01
東日本大震災発生後、変わる被災地のニーズにより広く対応するため、2011年4月から続けてきたCivic ForceのNPOパートナー協働事業。現在実施中の第4期では、中長期的な視点で地域の復興に貢献する被災地発の取り組みをサポートしています。
今回は、宮城県気仙沼の食・文化・歴史・観光の情報を一冊にまとめた『まるかじり気仙沼ガイドブック』を復刻させた「スローフード気仙沼」の取り組みを紹介します。
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「魚が新鮮なだけで面白い場所なんてない、つまらないところ。戻りたいとは思わない」――東日本大震災が起きる数年前、宮城県気仙沼市で“食文化”を軸に地域活性化に向けて活動する市民団体「スローフード気仙沼」理事の山内宏泰さんは、都心への大学進学が決まった地元の高校生の言葉を聞き、「これは何とかしなければならない」と感じたそうです。「進学先の地で、彼らはきっと気仙沼を“何もないところ”と言う。若者がよその地でも気仙沼の自慢話をしてもらうようになるには、大人たちがこの町の魅力を知り、地域の歴史や文化をちゃんと伝えていくことが必要ではないか」。
震災以前の気仙沼は、リアス式海岸の内湾に、カキ、ホタテ、ホヤ、ワカメなどの養殖いかだが浮かび、魚市場にはマグロやカツオ、サンマなどが大量に水揚げされ、人口の70%は水産業関係者。自他ともに認める「食のまち」であり、2003年には日本で初めて“スローフード都市”を宣言するなど、食と産業の新たな関係性を見出すことで地域を活性化させようと取り組んでいました。
そうしたなか、山内さんを中心に企画されたのが、気仙沼の魅力が分かる読み物の製作です。地元企業や行政、市民団体、学識関係者など地域で同じ考えを持つ人が集まって「ガイドブック作成部会」と「スローフード気仙沼ガイドブック編集委員」を設立。地域の商店などへのインタビューを重ね、2008年2月、気仙沼の自然、食文化、水産業の歴史、天然記念物、方言など、地域の全体像がまるごと分かる「まるかじり気仙沼ガイドブック」(発行:気仙沼商工会議所)6,000部が発行されました。市内の中高生に配布したところ反響が大きく、同年6月に3,000部を増刷。市内の書店などで500円で販売し、ほぼ完売していました。
しかし、2011年3月11日の東日本大震災で、ガイドブックに紹介されていた魅力的な街の姿は消えてしまいました。「高い意識を持って自らの力で街を興そうと地域の人々がさまざまな活動を続け、その志は震災後の今も変わっていないと信じている。でも、震災前の街は跡形もなくなってしまい、去っていく人もいる。外から来てくれた支援関係者などが震災前の私たちの取り組みを理解しないまま、復興活動を進めてしまうことにも危うさを感じる」と山内さんは語ります。
そこでCivic Forceは、この『まるかじり気仙沼ガイドブック』の復刻を通じて、震災前の気仙沼の“記憶”をより多くの人に共有してもらうとともに、震災後の地域を見直すきっかけになればと、スローフード気仙沼の復刻版発行のサポートをしています。
「復刻に当たっては、何よりもまず“改訂”ではなく“復刻”にこだわった。それは、震災前の気仙沼の姿を復旧・復興に関わるすべての方にもう一度確認していただきたかったから」と山内さん。そして2012年11月に完成した『まるかじり気仙沼ガイドブック 復刻版』は、A5サイズ、161ページ、オールカラーで、4,000部を発行。気仙沼の地域資源に光を当て、地域の風土や歴史、文化から観光、土産物、飲食店まで、震災前のあらゆる地域情報を網羅しています。復刻版では、震災での被害状況や復旧復興への課題、復刻の経緯などが前書きとして加筆されています。市内の図書館や公民館などに配布しているほか、語り部育成講座の参考資料としても活用。希望者には1人1冊を配布しており、ボランティアなどで気仙沼を訪れる人たちに震災前の姿を知ってもらう目的もあります。
オリジナルの発行元である気仙沼商工会議所の佐藤幸宏さんは、「ガイドブック作成にはもともと200人以上の街の人がかかわっていた。作成会議は高齢の専門家の方々も参加し夜遅くまで行ったことがたびたびあった。協力いただいた専門家の中には、入院中の方もいたが、思いを持って入稿文章を病室で書き上げてくれて感動した」と言います。
スローフード気仙沼は、ガイドブック復刻版の活動以外にもさまざまな活動を展開しています。次回は、漁業文化と密接に関係している“ゑびす様”をシンボルとした地域づくりを展開する「気仙沼ゑびすプロジェクト」や、被災した地域の飲食店関係者への取材を行う地域調査事業の現状についてお知らせします。