2013/12/17
「震災後、集まる場所がなくなった。大沢カフェは大沢のシンボルになる」―。
東日本大震災により、全186軒のうち、144世帯が津波により被災・流出し、40人が亡くなるなど壊滅的な被害を受けた宮城県気仙沼市唐桑町大沢地区。
子どもからお年寄りまで地域の方々が気軽に集えるコミュニティスペースとして活用が期待される「大沢カフェ(通称:エコハウス)」の竣工式が12月15日に開催されました。仮設住宅で暮らす大沢地区の住民が多数参加。エコハウスの基本設計などを行った東北芸術工科大学(山形県)の学生らが山形名物の芋煮を振る舞ったほか、ワークショップも開催され住民たちが交流を深めるとともに、エコハウスの完成を祝福しました。
大沢地区では、震災からわずか3か月後の2011年6月、地元有志で「大沢地区防災集団移転促進事業期成同盟会」(熊谷光広会長)を立ち上げ、「帰っぺす、大沢」を合言葉に、住民がもう一度ともに暮らせるよう、2015 年9 月の住宅再建、高台への集団移転を目指しており、今年6月から防災集団移転事業の用地造成も始まっています。
こうした中、津波により集会施設を失った大沢地区では誰もが気軽に集えるコミュニティスペースが求められていました。このエコハウスはそうした集会所として活用されるほか、高台移転する際、新たに新居を建設する際の参考となるよう、自然エネルギー体験施設の役割も担っています。
エコハウスの建設には、気仙沼に縁のある建築・都市計画専攻の大学研究室(横浜市立大学・鈴木研究室、神戸大学・槻橋研究室、東北芸術工科大学有志・竹内研究室など)から成る「気仙沼みらい計画大沢チーム」が大きな役割を果たしています。このチームは指導教官及び大学生によって構成される任意団体で、期成同盟会とともに過去の街並みを再現する模型作りや未来へ残すべき街の記憶を語りあう「『記憶の街』ワークショップ」のほか「大沢みらい集会」、「大沢まちづくり会議」を開催し、集団移転先や、浸水区域などの跡地利用を含めた大沢地区全体のまちづくりを支援しています。
完成したエコハウスは木造平屋で広さ約40平方メートル。東北芸術工科大学が進めるエコハウス建設のプロジェクト「山形エコハウス」をモデルに、屋根や床下、壁に通常の2~3倍の断熱材を使用。暖房を付けなくても室内はとても暖かく感じます。竣工式の日は、前日に降り積もった雪が残り氷点下の寒さでしたが、訪れた住民たちは口々に「暖かい」と絶賛していました。また建設地は港に面した国道沿いで、目の前にはバス停もあり、多くの人の目に留まることから「大沢地区のシンボル」として今後、大いに活用が期待されます。
Civic Forceの中長期復興支援事業「共還まちづくりプロジェクト」では、大沢地区の集団移転から跡地利用、まちづくりの担い手育成までを幅広く網羅し、住まいから仕事までを含めた包括的な復興まちづくりの先駆けとなることを目指すとともに、資金や専門家の派遣サポートなど地区住民主体の復興まちづくりが持続可能なものとなるよう支援しています。
以下、建設に携わった関係者や大沢地区の住民のメッセージを紹介します。
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■「この家の暖かさを体感することができる」―東北芸術工科大学建築・環境デザイン学科 竹内昌義(たけうち・まさよし) 教授
「エコハウスは普通の家と違い断熱性能が高い。屋根に30センチ、壁には15センチ、床下に10センチの断熱材を使用している。このエコハウスにより、高台移転する大沢地区の住民が断熱材の良さやこの家の暖かさを体感することができる。現在、大沢地区には集会所がなく、在宅の方、仮設に住む方たちが交流したり、勉強したりするところにしてほしい。また大沢のことを知りたいという人がお茶を飲みながら交流する場となれば幸い」
■「大沢はこれから面白くなる」―期成同盟会 熊谷光広 会長(写真右)
「移転に向け、ベースとしての基地ができた。もう1度、大沢に帰りたいと言う人たちにとってベースがなければ移転に向けた話し合いもできない。協力してくれた大学生など若い人たちにとってもプラスになると思う。大沢はこれから面白くなる」
■「大沢の心のよりどころに」―期成同盟会 星英伯(ほし・ひでのり) 事務局長(写真左)
「もともと、高台移転に向けて、東北芸術工科大学の持つ山形のエコハウスを視察し、大沢にモデルハウス的なものがあってもいいよねというところから形になった。これからこのエコハウスが大沢の心のよりどころとなる。仕事をしながら土曜、日曜と手伝ってきたが時間を調整するのは大変だった。場所の選定にも苦労した。支援していただいたCivic Forceにも感謝している」
■「カフェのように集まる場所に」―東北芸術工科大学修士2年 田中奏さん(写真左)
「設計、施工と初めて携わったが、思った以上の出来。模型以上にいい建物になった。床下、天井、壁にも断熱材を入れ魔法瓶のようにしているところが特徴。窓も四方に設け、南、西側の夕日も暖かく感じる。初めて携わったので建物に対する愛着が沸いている。カフェのように大沢のみなさんが集まる場所になることを期待している」
■「象徴となる建物に」―東北芸術工科大学修士1年 小林史明さん(写真右)
「震災後、初期に建つ家になるので、奇抜な建物でなく象徴となるような建物にしたかった。大通りから見ても見栄えがイイものになったと思う。たくさんの人に集まってほしい」
■「高台移転する際に参考になる」―小原木中学校の仮設住宅に住む、伊藤佐智子さん(55)
「高台移転に向け『大沢に帰ろう』をコンセプトに活動を始めた。震災後、子どもから高齢者まで集う場所がなかった。震災以前はこの近くにスーパーがあり、買い物がてら近所の方々と話ができる場所があったが、震災後は行き場所がなくなった。勉強会や会議など気軽に集まれる場所が必要とされている。エコハウスを有効利用するためにちゃんとした使い道を探り、きちんと活用していきたい。キッチンもあるのでお料理教室などとして活用してほしい。またエコハウスということで、高台移転する際にとても参考になるし、大沢のシンボルになると思う」
■「在宅と仮設の交流に」―大沢地区に住む男性(62)
「とても暖かみのある家。現在、大沢地区は津波被害に遭っていない『在宅』と、被害に遭い仮設住宅に住む『仮設』に二分されている。いろんなフォーラムや会議が小原木中学校の体育館で行われているが、在宅の人たちは仮設の方々に気を使ってなかなか参加していない。ここなら在宅の方々も気軽に来ることができると思う。高台に移転する人たちにとって、とても価値のあるエコハウスとなると思う」